「会社設立は35年前、現社長である父が起業しました。18歳で青森から東京へ、最初はパッケージデザインの仕事をしていましたが、会社とそりが合わず退社、青森に帰って印刷会社に勤めはじめた折り、社員にたまたまシルクスクリーン印刷の技術を東京で学んだ人が居り、そこでシルク印刷の作品を見て「こんなすごい印刷があるのか!」と感動し、のめりこんでしまったそうです。」
そう話すのはサトウ孔芸株式会社・つくってあそぼう課の佐藤さん。
サトウ孔芸が主業とするシルクスクリーン印刷とは、孔版印刷という手法で、紙はもちろん、ガラスや金属・布・プラスチック等、大抵のものには印刷可能な印刷方式となります。
ちなみに市販されている印刷機で行う印刷はオンデマンド印刷と呼ばれています。デジタルデータを用いるため印刷元となる版が不要な一方、立体物に対しての印刷はできません。近年では高性能で巨大なレーザープリンタで印刷をする方式も増えています。
チラシやポスター等、一般的な紙への大量印刷を行う方式は、オフセット印刷と呼ばれています。
近年は印刷需要の減少から「何でも屋になりつつあります(笑)」という佐藤さん。スクリーン印刷から発展し、木の板をブラスト彫刻した看板の制作や飲食店の看板、デパートの垂れ幕などを手掛けているそうです。
「『印刷ができるなら』って言うので初めて見たら何とかできた。そんな一歩が積み重なって今があるんです。」
佐藤さんが会社に入ったのは「タイミングが重なったのが大きな理由だった」と言います。
「社会に出てからは県内のオフセット印刷を手がける会社で修行をしていました。
印刷手法としては大きく違いますが、業務の進め方だったり、仕組みだったりという、今に活きる要素を学びましたね。その後、父が手術をすることとなり、年齢を重ねていたこともあって、青森に戻りサトウ孔芸に入ったんです。」
活動のなかで大切にしているのは「楽しいかどうか」だとといいます。
「父はさきほど伝えた通りですが、母も服飾の仕事をしていたので、DNAなのかもしれないですね(笑)牛乳パックを切って何かを作ったり、工作番組で紹介されたものを作ったりするのが大好きでした。
何かが出来上がる過程というか、変化が好きなんです。頭の中にあるイメージが現実の世界に現れるのがとても楽しく感じられました。
うまく言葉にできないですが……。人間って、大昔から生きるために道具を作ってきたと思うんです。マンモスを狩るための石斧だったり、早く移動するための乗り物だったり。“作る”ことは何と言うか、生きる事につながるんだと思います。農業はその最たるものだと思ってるんです。そういう「作り出す立場」に居れることが楽しいと思いますし、やりがいも感じますし、やっぱり「本能的に好き」なんだと思います。」
弘前ねぷたを手軽に楽しめる、パッチンクラフト・ねぷたクラフトキットも“楽しむ”を軸に活動した結果、生まれたものだったと言います。
「黒石のある会社の方からお話をいただいたのがきっかけでした。その方は地元への愛がとても強い方で『ねぷたのペーパークラフトを作りたい』というご相談をいただいたんです。
ですがお話を重ねていく中で『もっと、しっかりしたものを作りたい』というお話になり……。
そのとき、導入したものの、しっくりくる使い方のできていなかったレーザーカッターが頭をよぎったんです。」
もともとは他の事業での使用のために導入したという。レーザー加工機とも呼ばれ、対象となる物体へレーザーを照射することで、切断やマーキング、彫刻ができる機械のことです。
「レーザーカッターを用いて、木板にレーザーを照射。パーツに加工すれば『プラモデルみたいにねぷたを組み上げられ、楽しいことになるのでは?』と考えたんです。 その後、黒石の会社の方にその案をご提案しました。そうして受け入れていただいたことで、制作へと移り、ねぷたクラフトキットの原点、アーキタイプが誕生しました。」
製品化へ向かってこだわったのは「組みやすい製品にすること」だった、と佐藤さんは話してくれました。
「説明書や盤面を組みやすいものにしなければと、試行錯誤を繰り返しました。価格を安くという点にもかなりこだわりましたね。 やっぱり、たくさんの方に作ってもらいたいので、手に触れてもらいやすいものに仕上げたかったんです。」
製品化にあたって、同郷に済むねぶた絵師の山谷寿華先生に監修に入ってもらったり、本物のねぷたの設計図面を見たりしてブラッシュアップを重ねていったそう。
「ねぷたに限らず、構造物や、その設計図を見ると『このギミックすごい!!』とか『よくこんな作り方を思いついたなぁ』と常に発見がありましたね。そうやって理解したことを元に、新しい試作品を作るのが楽しくて……。
もともと、見物人としてお祭りが好きでしたが、だんだんと祭りへの想いが深まっていきました。」
そうして完成したのが、パッチンクラフト・ねぷたクラフトキットなのです。
その後は、パッチンクラフトを一つのブランドとし、ねぷた灯籠クラフトキットや金魚ねぷたクラフトキットなどをリリースしているサトウ孔芸。
これからについて「日本各地のお祭りをパッチンクラフトで再現していきたいと思っていますね。八戸の八幡馬はイメージが浮かんでいるところです。」と話してくれました。 「なかなか時間がなくてすぐにはできないんですけど……(笑)」という佐藤さん
「みんなが触れてもらいやすいパッチンクラフトを作って、多くの人に“作る”楽しみを伝えられたらと思っています。その過程が、私にとっても“楽しい”時間になりますからね。」
「やっぱり自分が楽しいことでないと!」と話す佐藤さん。パッチンクラフトを活用したアイデアは色々とある様子。サトウ孔芸、そしてパッチンクラフトのこれからが楽しみですね!